朝活や生産性の高い生活が注目されるなかで、夜にぼんやり考えてしまう時間を、あえて肯定したい。深夜の画面越しに流れる感情、うまく言語化できない違和感、他人の正しさに対する自分のズレ――。そんな、整理のつかない問いや思考を、哲学という枠組みを借りながら、言葉にしてみる。「わからないまま考えること」や「問いを持ったまま明日を迎えること」も、この社会に必要な知見のひとつかもしれません。
連載「逆朝活の哲学」では、日々考えることを手放さずに生きる、ゲーム実況グループ「モノパス」のメンバー・スマイルさん(@smileWT_)とともに、そうした“逆朝活”の思索を深めていきます。
いったい自分は何をすればいいのか
さて、今日は何をするのがいいだろう。1日の時間は限られているのだから、なにか有意義なことをしたほうがいいような気がする。だがいったい何が有意義なやるべきことなのかはどうすればわかるんだろうか。人生が終わってみてからじゃないと、そのとき本当に何をするのが正解だったのかはわからない。
けれど絶対的な正解を選ばなくても、周囲の環境や今の自分の状態などの情報を集めればやったほうが良さそうなことはなんとなくわかるんじゃないだろうか。少なくとも1日中スマホをいじってゴロゴロすることは、あまりやらないほうが良さそうだ。
でも結果的に可能な限りスマホをいじってゴロゴロする人生が自分にとって良い人生だったということが絶対にないとは言い切れない。そもそも良い人生とはなにかと考えたくなるし、良い人生を送るべきだという考え自体が間違っているのかもしれない。
しかしそうなると問いは最初に戻って、いったい自分は何をすればいいのかわからなくなってしまう。そんな難しいこと考えずにやりたいことをやったほうがいいと言われるかもしれないが、それができれば苦労はしないだろう。本当に自分はそれがやりたいのか、やりたいことをすることが本当に良い人生につながるのかなどを考えないといけない。いっそなにも選択しないで生きられたほうが楽なのだろうか。
「選択」の真実
だが安心してほしい。実は僕らはなにも選択できていないのかもしれない。
そもそも人間は究極的には物質であるため、その振る舞いは物理法則や因果関係に従うはずだ。具体的には人間がなにか選択をしてそれが行動につながる場合、脳細胞からの電気信号が筋肉を動かすことになる。またその脳細胞が筋肉に信号を送るのは別の脳細胞や体の他の神経などから刺激を受け取ったからだ。
ここであなたの意識がこうしようという選択をしたから脳になんらかの信号が発生するわけではない。もしそれが可能なら精神的、非物質的なものが物質に影響を及ぼせてしまうことになる。つまりあなたの意識は自分の行動になんの影響も与えておらず、ただ物質間の相互作用によって起こった肉体の行動をあたかも自分の意志で行ったかのように感じているだけだ。
そうなるとあなたは自分の人生において本当の意味で選択をすることはできないとわかる。選択はあなた以外の他の様々なものによる影響で自動的になされると言ってもいい。だから僕らにできることは目の前で起きることをただ観測することだけだ。それに共感したり喜んだり悲しんだりすればいいし、たまには本当に自分の意志で選択をしているんだと思ってみるのもいいかもしれない。
スマイル/2016年からゲーム実況グループ「White Tails【ワイテルズ】」のメンバーとして活動。2025年にゲーム実況グループ「モノパス【Monopass】」を立ち上げ「Minecraft」を中心とした動画投稿をしている。インターネットの争いを見るのが好き。
【本日の一冊】
哲学者と象牙の塔
(著・イラスト: 田中正人、イラスト: 玉井麻由子)
ここは哲学者たちが暮らす象牙の塔。日常生活のなかで悩みを抱えた人たちが、哲学者に救いを求めて訪れる。彼らはこう問いかける。
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