官公庁や総合商社から中小企業、小売業、さらには議員事務所までーー。これまでに1万人以上をカウンセリングしてきた心理学者・舟木彩乃氏によると、職場で感じる悩みやストレスの原因の9割は「人間関係」にあるといいます。
組織で働く以上、人間関係の悩みから完全に逃れることはできません。では、苦手な人とうまく付き合うためのヒントは、どこにあるのでしょうか。
上司、同僚、部下……あなたを憂鬱にする人たちの心理背景と、その具体的な対処法を、豊富な事例とともに紹介した舟木氏の著書『あなたの職場を憂鬱にする人たち』から、一部を抜粋・編集してお届けします。
ライバル同期の言葉に過度に反応
同じ言葉を聞いても、客観的な事実に基づき現実的に捉えられる人と、憶測に基づいてネガティブに捉えてしまう人がいます。一方で、相手がネガティブに捉えてしまうことを利用して陥れようとしたり、自分の有利な方向に状況をコントロールしようとしたりする人もいます。ネガティブさゆえに同期の社員にコントロールされ、自分は希望の部署に行けなくなると悩んでいた新人のケースを紹介します。
矢野さん(仮名、女性20代)は、新卒でPR会社に入社してもうすぐ半年になります。彼女が就職した会社は、最初の数か月は営業関連の部署に仮配属されることになっています。その後は、本人の適性や部署の必要人員数などを総合的にみて、そのまま仮配属部署に残留したり、他部署へ異動したりして、本配属先が決まることになります。
矢野さんの同期入社は6名で、このうち矢野さんとHさん(女性20代)は、企画営業部に仮配属されました。矢野さんやHさんは、企画営業部に残留するのか別部署へ異動するのか、そろそろ本配属先が最終的に決まる時期が近づいています。
企画営業部は、SNSなどを駆使したコミュニケーション力や営業力はもちろん、PR企画を立案するための緻密なマーケティングの知識も必要とされる部署です。同部にはSNSやYouTubeでインフルエンサーのようになっている人たちもいて、会社のPRに大きく貢献しています。
いわば、社内では花形部署ともいえるところですが、大きな案件を取り扱うことが多いので、とても忙しい部署でもあります。また、飲み会やゴルフコンペなども頻繁にあり、社員同士の交流もかなり活発な部署でもあります。
そういう先輩社員たちに囲まれている矢野さんですが、どちらかといえば消極的な性格で、自分に自信がありません。営業現場や飲み会などでも緊張しがちで、自分は部署の中で浮いていると感じることがよくありました。
それでも彼女が企画営業部で頑張っていきたいと思っているのは、もともと緻密な作業や統計分析が得意で、就職活動でマーケティングができる会社にフォーカスしてきたからです。仮配属先の企画営業部のマーケティング業務は彼女にとって魅力的で、学生のときからやりたかった仕事でした。
一方、矢野さんと同期のHさんは、明るく自信に満ちたタイプで、部署のイベントなどにも率先して参加しています。SNSも頻繁に更新していて、公私ともにキラキラした日常を写真や動画でアップしていました。同期ではあるのですが、矢野さんはHさんに対して少し苦手意識を持っています。知ってか知らずか、ときおりモヤモヤするようなことを言ってくるので、警戒している相手でもあります。
部署の飲み会やイベントは、新人である矢野さんやHさんが幹事を任されることが多く、2人は順番に担当していました。矢野さんは、イベントの幹事は得意ではないものの、少しでも部署のみんなの役に立ちたいという思いがあります。予算内でみんなが喜びそうなお店を探したり、遅れてくる社員のために細やかな配慮を考えたりすることを、彼女なりに楽しんでもいました。
しかし、Hさんは矢野さんが幹事の順番にもかかわらず、「私がやります!」と言って、積極的に幹事を申し出ることが何回かありました。矢野さんが「私の順番だから……」と言いかけても、Hさんは、「こういうのは、やりたい! って思ってる人が企画したほうが面白いから、私に任せてくれていいよ」などと言って、笑顔であるものの強引に幹事を引き受けていたそうです。
矢野さんは幹事業務を苦痛に感じているわけではないのですが、これではまるで自分が幹事役を嫌がっているように周囲のみんなに思われているのではないかと、不安になることもありました。こんな2人の新人の様子を見ていた上司から、「2人は正反対のタイプだね」などと言われたことがありますが、そのときはモヤモヤした気分になり、そのあともしばらく引きずってしまったそうです。
…つづく<手柄は横取り「印象操作」でデキるアピールを繰り返す新卒女性が、ライバルをどん底に突き落とした「悪意の一言」>でも、『憂鬱にする人たち』の心理背景とその対処法を解説します。