本当は飛躍的に便利になるのに
もし本気で日本政府が海外のIT先進国並にマイナンバーカードの活用を広げていった場合、どうなるのか。じつは、日本社会はめちゃくちゃ便利になると予想できます。
前編『悲しいかな…「マイナ保険証」に留まる日本のDXの切なすぎる現実』で見て来たように、日本社会全体で二重価格を設定できるようになります。
マイナンバーカードを進化させて、二重価格が実現すれば、円安の影響で日本にやって来るインバウンド勢には高い価格で買い物をしてもらい、インフレと税に苦しむ我々は安い価格で買い物ができるようにすることが可能になります。
ハワイには「カマアイナレート」と呼ばれる地元民レートがあって、運転免許証を見せれば地元民として認定してもらえて、ゴルフコースでもレストランでもかなりの割引価格で利用できるようになっています。京都のラーメンの例でいえば1800円のお店だったら地元民は1200円で食事ができるようなイメージです。
今のインバウンドの増加傾向を見ると、いずれ日本でも二重価格を本格的に導入しないと経済が回らなくなる可能性があります。今は外国人旅行者はむしろ免税で割安な消費を楽しんでいますが、あるべき方向は逆で、免税を廃止して二重価格を導入してもインバウンドの消費は減りませんし、国内経済はむしろよくなるはずです。
本編ではさらにマイナンバーカードが進化させたら、どんな便利な社会になるのかを見て行きましょう。
「地元住民」特典も可能
この二重価格は、マイナンバーカードを民間開放することであらゆる場所で設定が容易にできるようになります。たとえば東京ディズニーリゾートは日本国内の居住者であれば一律、外国人観光客とは異なる価格体系に設定することができるでしょう。
日本各地の動物園や水族館も同様です。全国から観光客が訪れることで有名な旭川市の旭山動物園や名古屋の東山動物園は、市内の住民だけに限定した割引価格を設定することもできます。入場者が券売機でチケットを買う際にマイナンバーカードで決済すれば、自動的に住民価格が適用されるような仕組みが導入しやすくなるのです。
二重価格の観点でいえば、マイナンバーカードに勤務先情報を格納することで居住者だけでなく、その自治体で勤務する労働者への割引も可能になります。たとえば自治体が発行する地元限定の商品券の制度がそのようなルールになっている場合が多いのですが、「地元民ないしは地元で働く人」という情報が容易にマイナンバーカードに格納できるようになります。
すでに行政はその方向で動いていることとしては、運転免許証など身分証明書全般へのマイナンバーカードの活用が進むでしょう。パスポートは諸外国との調整の点で難しいと思いますが、それ以外の身分証はほぼほぼマイナンバーカードへの一元化が可能です。
この流れに民間も乗れば、社員証のマイナンバーカード搭載などには変化を起こせるのではないでしょうか。最近ではオフィスに入る際に社員証をセンサーにタッチさせる方式がかなり広まっています。マイナンバーカードなら、従業員だけでなくゲストへの入館許可もストレスなく出すことができるようになるでしょう。
あの「儀式」がなくなる
たとえば私は経済評論家としてメディアに出演することが多いのですが、スタジオに到着すると受付で訪問の旨を告げて入館証を受け取ってから中に入れてもらう儀式がかならず発生します。
もしマイナンバーカードが入館証と連動するようになれば、私はゲートでマイナンバーカードをタッチするだけであらかじめ連絡を受けていた控室まで途中で警備員さんに止められることなく到達できるはずです。
さて、このようにマイナンバーカードを民間開放すれば、社会のさまざまなところでDX化が進んで世の中はより便利になるのですが、セキュリティの面ではどうでしょうか?
まず重要なこととして、マイナンバーカードのデザインは変更すべきです。そもそもマイナンバーの数字や住所がカードに印刷してあるあたりから国のセキュリティは甘いといわざるをえません。写真も同様です。本来は流行りのクレジットカードのようにナンバーレスにしたうえで、必要な時は端末にタッチすれば、確認する側が住所なり写真の情報を見られるようにすればいいだけのはずです。
もうひとつの問題は、紛失や盗難のリスクです。タッチ決済で使える以上は、マイナンバーカードを盗まれたら即、タッチ決済で使われてしまう可能性がありますよね。
実はこのあたりのルールはクレジットカードのルールをマイナンバーカードでも適用することで解決するはずです。
「危険」への対処法
具体的には日本で発行されたタッチ決済対応クレジットカードが盗難された場合、本人の支払責任は基本的に「なし」とされています。ただ補償の条件としてはすみやかに警察への紛失・盗難届を出すこととクレジットカード会社に連絡をすることです。
高齢者の場合、クレジットカードを盗まれて利用されても気づかない場合があるでしょう。警察に届けないまま数か月たって自分のカードが何度も利用されていることに気づいても、もう90日の補償期間を過ぎてしまったなどということもありえます。
実は複数枚のクレジットカードを一枚のマイナンバーカードに格納するようにしたほうが犯罪リスクは減ります。なにしろ財布の中からなくなったら、高齢者もその段階ですぐに気づきます。電車に乗る、買い物をするなど、次のカードを使ったアクションをする段階で紛失や盗難に気づくのです。
ではその場合はどうすればいいのでしょうか? 便利で安心な社会をつくるためにはDXの仕組みが重要です。
私の案としては、そのような場合、カードを紛失した高齢者が即座にコンビニのATMでマイナンバーカードを再発行できるようにするといいと思います。
便利さで高められる「セキュリティ」
高齢者ですから、コンビニのATMでマイナンバーカードの再発行をする際には24時間営業の警察のコールセンターとの会話での処理ができるといいでしょう。
「マイナンバーカードをなくしました」
「わかりましたではまず、お名前と住所、生年月日をお話しください」
といったやりとりでコンビニで再発行手続きができるようにするのです。もちろんスマホからも手続き可能にすればコンビニの店頭が無駄に込み合うこともないでしょう。
そうやってやり取りし、暗証番号を入力して本人であることが確認できたら新しいマイナンバーカードが自動的にコンビニATMで発行されます。
ここでDXが役にたちます。まずこのプロセスを使えば、なくしてから1時間以内に新しいマイナンバーカードが手に入るので利用者はそれほど困りません。
次に紛失の処理をした段階で警察に盗難届を出したのと同じ処理が、警察官の手を煩わせることなくなされます。いつ、どこで、どのようなことからカードがなくなったのかがわからないと警察は事件化しづらいと考えるかもしれません。しかしそのような調書をとる手間を省くメリットもあります。ひとつは先述したように利用者がすぐに新しいカードを使えるようにすること、そしてもうひとつが受け付けた瞬間にDXがそれまでのカードを無効にしてくれることです。
これまでは財布を紛失すると中に入っていたクレジットカード会社それぞれに連絡して、複数枚のカードの停止手続きをお願いする必要がありました。マイナンバーカードならそれが一度にできます。
もしその数十分の間にカードが不正利用されたとしたら? 盗まれたクレジットカードと同じですでにタッチ決済で使われてしまっていたら、それはカード会社で補償する以外にありませんが、利用途中ならそこで犯人を捕まえることができます。
「盗難」と「悪用」も減る
盗んだカードで決済をしようと試みた瞬間にお店から警察にそのときの動画とともに自動通報されることになるとか、社員証代わりに不正に会社に忍び込んだら、入った部屋に閉じ込められてしまうかもしれなくなります。
そういったリスクがあることがわかれば、カードを盗んで悪用する人も減るでしょう。
さて、若い世代の場合はクレジットカード同様にマイナンバーカードもスマホに格納して、スマホをマイナンバーカード代わりに使えるように開放すべきでしょう。これをやるとマイナンバーカードを持ち歩かなくてもスマホで何でもできるようになるうえに、ICカードではできない複雑な取引や設定もスマホで簡単にできるようになります。
ちなみに前提としてはスマホにマイナンバーカードを読み込ませた段階で、手元のマイナンバーカードが無効になるようにしたほうが安心ですね。スマホをなくした場合のリカバリー方法はさきほどの手続きと同じとします。
そのうえで、これは便利さと気持ち悪さを天秤にかけたうえで個々人が選べるようにすべきですが、スマホで使えるアプリすべてが自分の個人情報を参照できるようにすることで、あの面倒な会員登録のステップを省力化することも可能になります。
少なくともアプリへの新規登録のタイパは、かなり改善されるとみていいのではないでしょうか。
実にもったいない
結局のところスマホが最強のIDとなり、これを使えば銀行口座開設から、転職、引っ越し、そして納税まで何でもワンストップでできるようになります。
マイナンバーカードを最初に提唱した人は当然、このような未来を描いて提案したはずですが、なかなかそうはなりませんね。
政府の信用が低いからでしょうか?
日本社会全体でもっとDXが加速することに期待したいと思います。
さらに連載記事『残念ですが、モビリティ業界の新たな「4強」に「トヨタ」は入っていません…!これから台頭する「4社の名前」と「クルマの未来」』でも、日本経済の欠点を解説していますので、ぜひ参考になさってください。