マイナカードを便利にする方法
マイナ保険証が義務化されたことで一時危惧された医療現場での混乱ですが、始まってみると高齢者の利用率がむしろ高く、便利だと考える人も増えてきたようです。
さて、日本社会はOECD加盟国の中でも労働時間が長いうえに生産性が低いと指摘されています。海外諸国との社会的な生産性の差はDXの導入度の違いにあるともいわれます。
今回のマイナ保険証程度で満足するのではなく、もし本気で日本政府が海外のIT先進国並みにマイナンバーカードの活用を広げていった場合、日本社会はどう便利になるのか? 変化を予測してみたいと思います。
まず、最初の仮定を置きます。
法律を変えて、マイナンバーカードを民間利用にも開放することを考えてみましょう。
まずメガバンクから信用金庫まで高齢者が使う金融機関のATMは、キャッシュカードがなくてもマイナンバーカードでお金を引き出せるようにします。同様にクレジットカードもマイナンバーカードに登録できるようにします。
現行のマイナンバーカードのICチップは144KBの記憶容量があるので、クレジットカードやキャッシュカード72枚分ぐらいの情報を格納することができます。これだけでもできることはたくさんありますが、もしこの記事で書くようにマイナンバーカードの積極活用で社会全体のDXが進むのであれば、エストニアのように512KBや1MBのチップに置き換えることもできるようになります。
たとえばコンビニのATMがマイナンバーカードの書き換え端末として使えるようにパワーアップするとします。お年寄りがキャッシュカードをまず読み込ませて、つぎにマイナンバーカードを挿入すれば、機械がマイナンバーカードとキャッシュカードを一緒に書き換えてくれるような仕組みです。
この記事では、このような形でマイナンバーカードに大量の情報を格納できるようにできたら、社会がどう変わるのかまで考えてみたいと思います。
実はめちゃ便利にできるマイナカード
キャッシュカードやクレジットカードの情報がマイナンバーカードに格納されると、高齢者たちはマイナンバーカード一枚で日常生活ができるようになります。
ラーメンを食べてマイナンバーカードでタッチ決済、コンビニで買い物してレジでタッチ決済、病院や薬局ではマイナンバーカード一枚で保険証と処方箋と決済手段がまかなえるという具合です。
本当は複数あるクレジットカードのどれを優先で使うかとか、A百貨店ではA百貨店のポイントが貯まるカードに自動的になるとか、カードを読み取る際の情報ルールの整備が必要ですが、それはインフラの側で解決すると仮定します。高齢者が自分でスマホを使って設定をいじるというのは現実的には難しいですからね。
さらにこんな変化も起こせます。日本の交通機関でももうすぐ実現しそうですが、電車に乗るのもタッチ決済で乗れるようになると仮定しましょう。そうすれば高齢者はマイナンバーカード一枚でバスに乗り、電車に乗り継いで移動することができるようになります。
マイナンバーカードですから、年齢情報がきちんと格納されています。
交通機関や自治体によっては高齢者の運賃が違うとか、所得のない人は無料パスが発行されるなどのルールがあります。そういった細かい制度もマイナンバーカードとクレジットカードのタッチ決済が一体になれば情報として処理したうえで自動適用ができるようになりますね。
この前提を一歩前に進めると、日本社会全体で二重価格を設定できるようになります。
海外の人から高く取り、国民は安く…
たとえばインバウンド観光客で込み合う浅草や築地、京都やニセコといった地域では、物価水準の高騰が社会問題になっています。財布が豊かな外国人観光客をターゲットに価格設定すると、小売店や飲食店は儲かりますが、地元の消費者は価格が高すぎて消費できなくなります。
実際に先週、出張で京都に出かけた際に感じたのですが、京都の寺町など中心街の近辺ではラーメン一杯の価格が1800円というのが基準で、少し具が多いメニューを注文すると一杯のラーメンの価格は2600円になりました。
店内の客層を見ると、8割がたが外国人旅行者です。黒毛和牛の霜降り肉をあぶり、コンソメスープのように澄んだラーメンにトッピングしたメニューは、実際それだけの価値がある商品ではあります。一方で庶民の視点でみれば、ラーメン価格には本来「1000円の壁」があるといわれていたはずです。いきなり平均価格が2000円になったら、その地域で生活するのも苦しくなるでしょう。
海外の人気観光地では、そのような場合に二重価格を導入することが比較的普通に行われています。たとえばハワイには「カマアイナレート」と呼ばれる地元民レートがあって、運転免許証を見せれば地元民として認定してもらえて、ゴルフコースでもレストランでもかなりの割引価格で利用できるようになっています。さきほどのラーメンの例でいえば、1800円のお店だったら地元民は1200円で食事ができるようなイメージです。
二重価格で日本を活性化
ハワイの場合、割引されるのは最低メニューだけというような形で旅行客の不満が起きないような工夫もされています。ゴルフならカートが使えないとか、ラーメンなら一番トッピングの少ない基本メニューだけが地元価格になるといった具合です。
今のインバウンドの増加傾向を見ると、いずれ日本でも二重価格を本格的に導入しないと経済が回らなくなる可能性があります。今は外国人旅行者はむしろ免税で割安な消費を楽しんでいますが、あるべき方向は逆で、免税を廃止して二重価格を導入してもインバウンドの消費は減りませんし、国内経済はむしろよくなるはずです。
この二重価格を使って、日本はもっと経済を活性化させることもできるようになるのです。
つづきは、後編『日本DX、「実力」と「現実」の格差がデカすぎた…!考えてみたら切なくなったマイナンバーカードで実現できる「理想の社会」』でじっくり解説していくことにしましょう。