日経平均が10月27日に5万円を突破し、10月31日には5万2411円の最高値を付けた。高市早苗政権が発足し、さながら「サナエノミクス」と言わんばかりに喧伝しているが、一般の家庭に恩恵があるようには感じられない。むしろ現在の株高は、日本経済が私たちの生活をより苦しめるような方向に進んでいることを暗示している。
前編記事『「4月に海外投資家が8兆円の爆買い」日本人は素直に喜べない「日経平均5万円突破」のカラクリ』より続く。
実は日本は内需の国
今の円安は、輸出企業にとっては円換算の利益が増えるので歓迎されるが、内閣府の公表によれば、そもそも日本はGDPの約8割を内需に依存する国。GDPに対する貿易額の比率を国別に比較する世界の貿易依存度ランキングを見ると166位で、完全に内需の国だ。
ところが、エネルギーから生活必需品まで輸入に頼っているために、貿易赤字が続いている。貿易赤字は、円安の一因となる。海外への支払いのために円を売って外貨を買わなくてはならなくなるからだ。
円安は、輸入品の比率が高い家計や資源を海外から買わなくてはならない企業に、ダメージを与える。
帝国データバンクの2024年5月の調査では、円安で利益が増えたと感じている企業は、全体のわずか7%。逆に、利益が減っているという企業は約64%だ。
円安は、株を買う海外投資家にとっては大きな恩恵を与えるが、過半数の企業には、海外から輸入してくる資材などの高騰で利益がマイナスになるという悪影響を与えている。
こうした企業が、従業員の給料を上げられるかといえば、難しいだろう。
日本のすべての会社のうち、株式上場している企業はわずか1%。残りの99%の企業は、今の株価上昇の恩恵はさほど受けていないのではないか。
円安による輸入物価の高騰で、庶民も企業も苦しんでいるというのが今の日本の実態で、株価上昇で高笑いしているのは、海外投資家や一部の大手企業にすぎない。
稼いだお金は自社株買いに
「アベノミクス」が始まって今日までに、日本の企業は巨額な内部留保を溜め込んできたアベノミクスがスタートした2012年の日本の企業の内部留保額は305兆円。これが13年連続で過去最高を更新し、現在は2倍以上の637兆円あまりとなっている。
本来なら、これほど儲かったなら、一部を従業員の賃金にまわすべきなのだが、「企業が儲かれば、その恩恵をみんなが受けられる」と声高に訴えていたアベノミクスのトリクルダウンは、ついに起きないまま終わった。
一生懸命働けば、給料が増えて生活が良くなるというのは、幻想だった。
企業は、巨額に膨れ上がった内部留保を賃上げや設備投資には使わず、株主への利益還元にまわした。2010年には10兆円程度だった株主への配当総額は、24年度には23兆円まで膨れ上がっている。
さらに近年は、前述したように巨額な内部留保が、自社株買いにまわされている。
選挙で自民党の公約だった国民1人2万円の選挙公約は反故にされ、食品の消費税ゼロも首相の所信表明演説では触れられず、物価高の対策は無きに等しくなった。
そんな絶望的な状況で、一生懸命働いた証の内部留保まで、給料にはほとんど回されずに、株価の押し上げに使われている。こうした気持ちにつけ込むように、国は「投資しないと明るい未来が来ない」と喧伝し、多くの国民を株式市場へ誘導しようとしている。
ババを引くのは個人投資家
金融庁は2026年度の税制改正で、現在18歳以上に限定されているNISAの積立投資枠の規制を緩和し、商品拡充をし、非課税保有限度額の当年内復活の要望を掲げている。
非課税保有限度額の当年内復活とは、投資商品の売り買いを活発にさせようというもの。現在のNISAでは年間の買付け額が決まっていて、いったんその枠に到達してしまうと、投資商品を売ってその枠に空きができても、翌年までは買うことはできない。これを、投資商品を売って空いた枠ができたら、年を跨がなくても買えるようにしようということだ。
これにより、国は個人の投資を後押しし、株価の下支え要因を増やそうとしている。
ただ、バブル崩壊やリーマンショックもそうだったが、株式市場が崩れたとき最初に逃げ出すのは、情報が早い海外投資家や国内のプロの投資家である。情報を入手するのが遅くなる個人は、「ババ」を引いて株価暴落の餌食になる可能性が高い。
今後、円安から反転して円高に向かうとの公算が強まっている。
FRBは、10月29日、今年2回目となる0.25%の利下げを行ない、日銀は、10月は利下げを見送ったが、物価上昇が激しいだけに、年末には利上げをする可能性がある。そうなると、日米金利差が縮まり、円高になる可能性は高い。
黒田東彦前日銀総裁は10月30日のブルームバーグのインタビューで、日米金利差の縮小見通しから、年末までに円は1ドル120円から130円前後に向けて上昇する可能性があると答えている。そうなると、再び円高を嫌気した海外投資家の利益確定売りで日本株は下がり、相場は急速に冷え込んでいく可能性がある。
海外投資家に持ち逃げされるマネー
もし年末までに円高と急激な株の下落が起きたら、これが来年の春闘に与える影響は小さくないだろう。中小企業に比べ、大手企業は輸出割合が高いだけに、円高は死活問題である。こうした状況で経営サイドが気前よく賃金を上げるかと言えば疑問だ。
しかも、日本の企業の多くは大手の下請けの中小零細企業。現在、会社で働いている人の7割は中小零細企業に勤めている。こうしたところは、円安で輸入資材の価格が高騰して利益が出なくなっているだけでなく、逆に円高になると、納入先の大手企業の赤字補填のバッファーとなりやすい。
つまり、どちらに転んでも利益を出せないところが多い。なおさら中小零細企業の給料が来年の春闘で上がるかと言えば疑問だ。
一生懸命に働いて稼いだお金は会社の内部留保となり、自社株買いに使われて株を持たない一般社員には還元されない。しかも、株価が下がれば、海外投資家は株を売り逃げして、お金を海外に持っていってしまう。
後始末に追われるのは日本の企業で、そんな中では給料は上がらない。「山高ければ、谷深し」というが、仮に今回の急激な株高に希望を託し、一儲けしようと考えているなら、すでに遅いのでやめておいたほうがいいかもしれない。
日経平均株価が5万円台になっても、多くの人の懐は潤ってはいないどころか、ますます先行きは不安になっている。国もマスコミも、高市政権の誕生を5万円台に乗った株高と絡め、まるで景気が回復したようなお祭り騒ぎだが、通常は100日といわれる首相就任のハネムーン期間は、意外と短く終わるかもしれない。
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