快進撃だがまだ未知数が多い
高市総理は、これまでの緊縮財政の政府方針から一変する「責任ある積極財政」を打ち出し、総理就任直後に、異例の人事を次々と打ち出した。財務大臣、経済財政担当大臣にそれぞれ積極財政派の片山さつき氏、城内実氏を任命すると同時に、自民党税制調査会、経済財政諮問会議や日本成長戦略会議といった経済政策上重要な会議体に次々と「積極財政派」の議員、有識者を任命した。
国会答弁では、PB黒字化目標の達成状況を毎年度の予算編成などで確認する従来の方法を取り下げる旨を表明し、経済財政諮問会議の民間議員も同趣旨の発言が相次いだ。
こうした体制を背景に、ガソリン税の暫定税率の年内引き下げという消費者に対して「実感」のある積極財政も国会決議された。現在は、物価高対策と危機管理、成長投資の拡充のための補正予算が国会審議されるに至っている。
こうして高市内閣は誕生から三週間あまりしか経過していないにもかかわらず、(トランプ、習近平、イジェミョンらとの矢継ぎ早の首脳会談を成功させた外交的成果のみならず)「責任ある積極財政」の方向で一定以上の成果を生み出したと言うことができよう。
しかし、これ以降の政権運営で、どれくらい大きな成果を生み出せるのかは未知数の状況にある。
例えば、国民は今、国民民主党が提唱し、自民党と公明党と三党合意を取り結んだ「178万円への年収の壁引き上げ」の実現を熱烈に望んでいる。高市総理も総裁戦時点で、その実現を明言していたものの、少なくとも今年の臨時国会での成立は見通せない状況にある。理由は自民党内の「財源をどうするのだ?」という議論に足を引っ張られているところにある。
あるいは、同じく国民民主党含めた野党各党も、さらには、総裁選に打って出る前の高市早苗氏本人もまた主張している「消費税減税」についても、決議される見通しは未だ全くたってはいない。この消費税減税にも勿論強い国民的な要求が存在しており、かつ、高市氏もまた、総理としての国会答弁において「恒久財源5兆円を自由に使えるとしたら何に使いたいか」との質問に対して「自民党に怒られるかもしれないが、今だったら食料品の消費税をずっとゼロにする」と言明しているにも関わらず、実現の見通しが立っていないのである。
なぜそうなっているのかと言えば、これもまた「恒久財源」なるものがないという事になっているのが原因だ。それがないのに減税したら、高市総理は「自民党から怒られる」という状況にあるわけだ。
日本には「6兆円」の恒久財源がある
しかし、実際には日本政府には「恒久財源5兆円」は存在する。
そもそも、PB規律を凍結し、政府債務対GDP比の引き下げを財政規律の根幹に据えるという高市総理の所信表明演説の趣旨に従うなら、現下の金利状況(加重平均で0.8%程度)の状況があり、かつ、債務がGDPよりも圧倒的に大きな状況である限り、現状より毎年5兆円程度の支出拡大があったとしても(それによって少なくとも支出額の半分以上のGDP拡大効果さえ有れば)、債務対GDP比は確実に引き下がる状況にある。
つまり、減税すればGDPが拡大するのだから、現状においては政府債務の拡大率がGDP成長率の範囲内に収まることになるわけだ。
それにも関わらず「自民党に怒られる」となってしまうのは偏に、政府債務対GDP比の引き下げ規律ならば、消費税減税の「恒久財源5兆円」なり年収の壁引き上げのための「恒久財源6~7兆円」なりが存在するという<真実>についての理解が、自民党において進んでいないからに他ならない。
むろん、高市氏は「総裁」として自民党内の「理解」を進めんと努力されていることは間違いないだろうが、そもそも自民党内部には前政権まで「活躍」された緊縮財政派勢力が未だに色濃く存在しているのが現実だ。かの総裁選決選投票で「緊縮財政派」の進次郎氏に投票した議員が実に145名も存在していることを忘れてはならない。
さらには、野党においても立憲民主党の現執行部もまた、強力な緊縮財政派である。
こうした与党内外の緊縮財政派の影響で、国民が熱烈に求めている178万円への年収の壁引き上げや消費税減税が進まないというのが現在の国会情勢なのだ。
この状況を打開するには、年内(あるいは年始)の解散が最も効果的だ。
勿論、「少数与党」として成立した高市政権は、この「少数与党」として実現しうることを一定以上十分に成し遂げる義務を負っているわけだが、以上の分析が示唆する通り、今の高市政権にでき得ることは「ガソリン税減税」であり「補正予算」の成立程度以上の積極財政には、多くの困難が伴う国会情勢があるのだ。
補正予算が石破補正を少々上回る程度なら
ただし、ここで重要な試金石となるのが「補正予算」の内実だ。
もしも、例えば筆者が債務対GDP比の視点から算出した45兆円という水準、あるいは、成長戦略会議の会田氏がネットの資金需要不足量として推計した50兆円規模の予算が組まれれば別だが、昨年の13.9兆円という石破補正と同程度、あるいは、それを少々上回る程度の規模となったとすれば、それは現下の国会状況の中では、高市総理がイメージする「責任ある積極財政」の実現にはやはり大きな困難が伴っているという事を意味する。
もちろん、仮にそうなったとしても、これまでの「岸破」政権よりはマシだという観点から、現下の「高市人気」が「岸破」政権程度の支持率にまでスグに急落するとは考え難い。しかしそれでも、不十分な補正予算となれば、「責任ある積極財政」にに対する国民の大きな期待感は徐々に冷めていくことが確実だ。
さらには、年明けスグに次年度の予算審議にはいったとしても、同様の光景が国会で繰り返され、石破政権よりは望ましいものの、本来、高市総理が実現したいと考えている「強い経済」をつくるための「責任ある積極財政」を実現するに足る十分な予算が組めない事態が続くことが大いに危惧されることとなる。結果、内閣支持率がますます下落していくこととなる。
そうして内閣支持率が低迷してくれば、政府内外、自民党内外の「緊縮財政派」とのパワーバランスにおいて高市総理の力はますます衰えることになり、ますます「責任ある積極財政」を推進するという「責任」が果たせない事態となっていく。
そうなった時に、誰よりも最も大きな「被害」を被るのは言うまでも無く「国民」だ。結局岸破時代と同様に手取りも増えず、賃金も増えず、ビジネスも上向かない状況が続くだけになるからだ。
結果、高市政権が瓦解するリスクは高まり、その帰結として再び、緊縮財政、さらには、リベラルを旨とする政権が誕生することとなってしまう。そうなれば、日本の未来にせっかく高市政権誕生で希望の明かりが灯ったにもかかわらず、再び絶望的に暗いものとなってしまうことは確実だ。
状況を突破するために
このリスクを避ける最大の方法こそが、「年末(あるいは年始)解散」なのである。
その解散後の選挙で自民党が高市総裁の下、
「責任ある積極財政」
を基本とした178万円への年収の壁引き上げ、消費税減税を含めた公約を掲げ、国民の是非を問うのである。党としての公約を定め、現下の緊縮派の議員達も含めた党所属候補者全員が、党の方針としての積極財政を各選挙区で主張しながら選挙戦を戦うのである。
無論、それでもなお国民が自民党にNOを突きつけたとするのなら、高市政権の役目はその時点で終了するとの覚悟は持たねばならない。しかしもしそうならず、国民の大きな支持を受け、衆議院で自民が単独過半数を取ることができたのならば、参議院で過半数を得るために、日本維新の会や国民民主党との連立を前提とした政権をその時点で改めて樹立させれば良いのである。
さすれば、高市総理はもはや「自民党に怒られる」という心配をせずに堂々と消費税を引き下げ、年収の壁を178万円まで堂々と引き上げることが可能となるのだ。
これこそ、国民が望む「強い経済」を実現する、最も確かな方法であると筆者は考える。もちろん、「解散などせずとも責任ある積極財政を実現することは可能だ、以上の指摘は過度に悲観的だ」という向きもあるかも知れない。
しかし仮にそうであったとしても、現下の議席数は「緊縮・石破内閣」に対する評価に基づくものであり、決して「積極財政・高市内閣」に対するものではないのだ。そうである以上、高市総理が存分に積極財政を展開するためにも、高市内閣に対する国民評価に基づく議席数の下で行政展開する方がより効果的であることは論を待たない。そしてそれができるのなら、高市政権はさらに高い国民的支持を受ける事に成功するだろう。
高市政権には是非とも、国民の願いを叶えていただく政治を、実際に実現いただきたいと心から願う。そしてそのためにも是非、年内あるいは年始解散に踏み切る英断をなされんことを、心から祈念したい。
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