「権力の館」にて
東京・平河町の砂防会館――と聞いて、ピンと来た人はかなりの政治通と言っていい。昭和10(1935)年に設立された任意団体、全国治水砂防協会が建設し、管理・運営する。設立当初の赤坂溜池から平河町に新築・移転したのは1957年8月。そして築後約60年で老朽化と耐震性の問題から全面建て替えとなり、現在の砂防会館(本館。地下1階、地上7階)が完成したのが平成30(2018)年4月である(現在は一般社団法人)。
55年体制発足以降の自民党史に言及した故・伊藤昌哉の『権力の研究―実録自民党戦国史』(1982年、朝日ソノラマ刊)を繰るまでもなく、頻繁に登場する「権力の館」とは旧砂防会館を指す。
有名な話はこうだ。そもそも自民党本部は66年に永田町に自由民主会館が完成するまで砂防会館にあった。そして空いた同館2階と3階の店子として絶頂期の田中角栄元首相の「木曜クラブ」(田中派)と中曽根康弘元首相の「政策科学研究所」(中曽根派)が派閥事務所を構えた。
その後は田中、中曽根両氏個人事務所だけでなく、亀井静香元政務調査会長、古賀誠元幹事長、青木幹雄元官房長官、森喜朗元首相らの個人事務所も蝟集した。
砂防会館は自民党本部と指呼の距離にある。青山通り(国道246号線)の横断歩道を渡った左側が自民党本部だ。
さて、9月7日(日)に砂防会館で午後2時30分から午後7時15分まで参政党(神谷宗幣代表)主催の講演会が開かれた。
チャーリー・カーク氏を招聘
同会館別館B(シェーンバッハ・サボー)の1階の大会議室「利根」(856㎡。収容人員約1000人)と2階ギャラリー席(約100人収容可)に聴衆の党員・サポーター1200人余が集まった。そもそも熱量が高い聴衆で満員の会場は異様な雰囲気を醸し出していた。
筆者はこれまで当コラムで、トランプ米政権の要路を占める実力者であるJ・D・バンス副大統領、スティーブン・ミラー大統領次席補佐官(国家安全保障担当)、スコット・クポー連邦人事管理局(OPM)局長らに政治思想の面で大きな影響を与えるカーティス・ヤーヴィン氏の存在に言及してきた。そのヤーヴィン氏をトランプ政権に影響力がある政治思想家(ブロガー)だとすると、神谷=参政党主催の講演会講師が政治運動家(アクティビスト)であるチャーリー・カーク氏であった。
昨秋の米大統領選でドナルド・トランプ氏圧勝の勝因とされた若者世代のトランプ=共和党支持に寄与したのが、若者向け保守系政治組織「ターニング・ポイントUSA」を創設したカーク氏である。弱冠31歳で米Z世代のカリスマだ。そのカーク氏をゲストスピーカーに招いたのは、神谷代表の外交・安全保障政策のアドバイザーである同党の山中泉参院議員(元NY野村證券トレーダー)と、国際政治アナリストの及川幸久氏(元米メリルリンチNY本社勤務)である。
神谷氏が20年4月の参政党を創党する際にマルチ商法で知られる「アムウェイ」と新興宗教の「幸福の科学」をビジネスモデルにしたことは知る人ぞ知るだ。ここでは後者にスポットを当てたい。もちろん、理由がある。幸福の科学出身の及川氏は在籍中に国際局長、広報局長を歴任した元幹部である。
話は次のように広がる。
見え隠れする「幸福の科学人脈」
旧通商産業省の昭和57(1982)年入省者は20数人いる。中でも著名人が2人いる。一人は安倍晋三政権で首相政務秘書官・首相補佐官を務めた今井尚哉キヤノングローバル戦略研究所主幹であり、二人目が岸田文雄政権で首相首席秘書官だった嶋田隆元経済産業事務次官である。
今井、嶋田氏は入省時の配属先がともに資源エネルギー庁。前者が同庁公益事業部計画課、後者は石油部計画課。ところが同期入省でエネ庁配属がもう一人いた。同庁官房総務課配属の小林健祐氏。同氏が当時の国家公務員総合職試験で3人中一番であったことは自明である。
ところが、その小林氏が入省10年頃に突然「人間の幸福とは何かを考える人生を送りたい」との言葉を残して退官した。そう、幸福の科学に入会したのだ。同氏は09年総選挙に「幸福実現党」から比例東海ブロックに立候補した。22年時点では幸福の科学発行の雑誌「ザ・リバティ」編集長である。小林氏が、元幹部だった及川氏と面識があったとしてもおかしくはない。
幸福実現党初代党首の饗庭浩明という人物もいる。慶應義塾幼稚舎入学から同大学法学部卒業まで一貫して塾生の同氏は在学中に入会した。15年に退会して全米保守連合(ACU)のカウンターパートとしてJCUを設立し、トランプ1.0以降今や、米保守派最大勢力とされる全米保守政治行動会議(CPAC)の日本版J-CPAC扱いとなっている。神谷氏はその常連である。
要するに、神谷氏周辺には幸福の科学人脈が見え隠れするということだ。
同じ9月7日に投開票だった三重県議補欠選挙(定数2人)で参政党新人が立憲民主推薦候補、元市議自民候補との三つ巴で自民を破って2位当選した。砂防会館から放たれた「参政砲」が幹線道路を隔てた先にある自民党本部を直撃したのである。神谷氏が当日吠えた「次期衆院選で30~40議席を獲る」は決してホラではない。
恐るべし神谷=参政党!
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