2025年8月25日、ブルーバックスより
『カラー図解 アメリカ版 大学地球科学の教科書』
の第1巻、第2巻が上梓された。
本書はアメリカの名門大学が採用する地球学教科書
『UNDERSTANDING EARTH』(8th edition)
を全3巻の構成で翻訳したものである。
第1巻と第2巻では、プレートテクトニクスから、マントル対流など地球内部の動き、それらによって生みだされる火山や地層、岩石変成など、地球の固体部分の大きな仕組みが手に取るように理解できるつくりになっている。
また、第3巻では、大気・海洋の大循環システムから、いまや避けられない関心事である温暖化、マクロ的視点でとらえた気候大変動など、地球の表層部分の大きなメカニズムを中心に学べるようになっている。
本シリーズは、基礎から専門的な知識までしっかりと学びたい高校生や大学生の教科書として最適であるだけでなく、さらに専門的な地球科学、惑星科学、地質学の科学書を知解するための基本知識を得ることのできる良質な入門書である。
この度ブルーバックス・ウェブサイトにて本書の一部を特別公開。
我々が住む地球の「真実」をご覧ください。
*本記事は、『カラー図解 アメリカ版 大学地球科学の教科書 第2巻』(ブルーバックス)を再構成・再編集してお送りします。
姉吉の大津波記念碑
東北地方沿岸に位置する重茂半島の小さな漁港、姉吉地区の丘には1基の石碑が建っており、そこにはこう刻まれている。
「高き住居は児孫の和楽 想へ惨禍の大津浪 此処より下に家を建てるな」
現在は宮古市の一部となっている姉吉地区はかつて、漁師たちが船をつないでいた港に近い、丘の下のもっと便利な場所にあったが、1896年と1933年に大津波に襲われ、それぞれわずか2名と4名の生存者を残して村は壊滅状態となった。
この石碑は、高台に暮らすことになった理由を忘れぬよう、住民たちに絶えず警鐘を鳴らしている。
2011年3月11日午後2時46分、過去からの警告が現実となった。日本列島と太平洋プレートを隔てている沖合の衝上断層がすべりはじめたのだ。
姉吉地区の南東約100kmの海域で、地下24kmの断層面の小さな領域で破壊が始まり、ガラスにひびが入ったときのように加速しながら周囲へ広がり、そのスピードは秒速3km(時速約1万km)近くに達した。
数分後に破壊が停止したときには、太平洋プレートはサウスカロライナ州に相当するほどの断層面に沿って、日本の下で50mも移動していた。マグニチュード9を記録したこの東北の巨大地震で生じた地震波は、地表沿いや地球内部を伝播し、何日間も地球を震わせた。
本州が太平洋プレート上に東方向へ押し上げられたため、地震直後には海底が10mも隆起し、数千億トンの海水が押しのけられて、断層を起点に巨大な津波となって流れ出した。
1時間もしないうちに、地震波より低速だがはるかに破壊力の大きな海水の波が、日本沿岸の湾や入り江に到達した。岸に近づくにつれて高さを増すそのようすは、身をよじる怪物を思わせた。
港に入り込んだ波(「港の波」を意味する津波〈Tsunami〉は万国共通の呼称として使用されている)は巨大な水の壁となって、沿岸の集落をのみ込み、自動車や船や建物を押し流し、場所によっては海岸線から数km離れた内陸にまで達した。
急流があらゆるものをのみ込んでいくさまは、上空のヘリコプターから捉えたり、高台や高い建物の上へ避難して助かった住民たちが撮影したりした、目を覆いたくなるような映像に残されている。
津波は宮古市中心部を守るために設置された防潮堤を乗り越えて、1000隻の漁船のうち970隻を破壊し、逃げ遅れたり避難しなかったりした多くの住民の命を奪った。死者の数は今なお確定していないが、東北地方沿岸で2万人近くが犠牲になった。
巨大な津波は最高で海岸線から39mの地点まで遡上した。これは近代の日本でも屈指の規模で、姉吉地区の大津波記念碑よりもわずかに低い地点だった。記念碑より高い地域に居を構えていた住民たちは無事だった。
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