海外では 「イーサリアム買うだけ」ビジネスも出現
前編記事〈メタプラネットから呉服屋まで…「ビットコイン買うだけ」ビジネスが上場企業で拡大するワケ〉ではいま日本の上場企業の間で「ビットコイン(BTC)の保有」を経営戦略の中核に据え、時価総額を急拡大させる動き=「ビットコイン買うだけ」ビジネスが相次いでいる事態について、その背景を考察してきた。
一方、上場企業によるビットコインの保有が進む海外では、暗号資産の時価総額が第2位のイーサリアム(ETH)を保有する企業も目立ちはじめている。
米国のデジタル資産プラットフォーム運営企業であるBit Digitalは、保有するビットコインを全て売却し、財務戦略の主軸をイーサリアムへ移行したと発表した。
また、バイオテクノロジーを祖業とし、現在は「ETHZilla」に改名したナスダックの上場企業も、株価復調を目的として600億円近い金額のイーサリアムを保有することで株価を大きく上昇させた。
これらの企業によれば、イーサリアムは、価値貯蔵機能がフィーチャーされているビットコインとは異なるという。イーサリアムには、スマートコントラクトによるデジタル経済のインフラとしての成長性や、ステーキングによってインカムゲインが期待でき、ビットコインよりも高い収益性が期待できることがその根拠であると説明する。
しかし、そのような説明は建前に過ぎないと筆者は考える。ホンネとしては、暗号資産を保有するだけのビジネスは誰がやっても同じパフォーマンスになる。また、海外ではビットコインのETFや税制の優遇が日本よりも進んでおり、上場企業がビットコインを保有するという戦略はすでにレッドオーシャンの状況に陥っているのだ。
ビットコイン戦略、日本でもまもなく終了?
日本でビットコインを買うだけの上場企業が人気となる背景には、暗号資産の税制が大きいとみられている。
現在、暗号資産投資の売却益には最大で55%以上の税金がかかる。しかし、保有資産の大半をビットコインに変えた企業の株を買えば、金融所得として約20%の税率で済む。NISA口座を活用すれば実質的なビットコイン投資が非課税で行うことも不可能ではない。
しかし、政府は暗号資産のETF承認や、上場株式等と同様の20%分離課税適用の検討を進めている。これらの政策が実現すれば、個人投資家や機関投資家が上場企業を経由せずに直接暗号資産に投資できる環境が整うことになる。
そうなれば、上場企業が果たしてきた「擬似ビットコインETF」の役割は終わる。
足元ではビットコインの保有で株価を押し上げ、その高まった市場評価を基に増資や転換社債発行などで更なる資金を調達し、そのお金でビットコインを買うという動きとなっている。
しかし、これがひとたびが逆回転すれば、「自転車操業」に転じてしまう。そうなれば、米国のようにビットコインがダメならば、イーサリアムの保有で株価を上げようとする上場企業が日本でも生まれてくるだろう。
しかし、イーサリアムであろうと何であろうと、上場企業がその暗号資産を保有する本質的な価値がない限り、同じ顛末を辿るだけだ。
熱気が冷めた後、企業に問われるのは、単なる投機ではなく、その暗号資産投資にどれだけの「事業の必然性」があったかだろう。
二極化する「暗号資産との向き合い方」
自動車業界大手のデンソーやトヨタでは、自動車のセキュリティ強化や部品のトレーサビリティ管理にブロックチェーンを活用している。また、ソニーも音楽著作権管理システムにブロックチェーン技術を導入し、権利管理の透明性を高める取り組みに乗り出している。
フリマアプリのメルカリでは自社のプラットフォームで暗号資産決済が利用できるサービスを開始し、フリマアプリのユーザーを巻き込みながら、暗号資産の決済普及を牽引する役割を担っている。
これらの企業は、本業への暗号資産導入で企業価値を直ちに高めているわけではない。しかし、ブロックチェーンを「事業のツール」として捉え、既存事業の効率化や新たな収益源の創出、さらには企業の社会的役割を拡張しようと試みている。
これは、事業会社本来の「本旨」に沿った、より堅実で先進的な戦略と言えるだろう。
企業の価値が、製品やサービスが生み出すキャッシュフローではなく、根拠なき金融資産の価格変動に依存することは、極めて投機的であり、事業会社としての本旨に反するという批判は免れない。
経営陣は、短期的な株価の誘惑に惑わされることなく、この戦略的選択の本質とリスクを深く理解した上で、慎重な判断を下すことが求められる。