2025年8月25日、ブルーバックスより
『カラー図解 アメリカ版 大学地球科学の教科書』
の第1巻、第2巻が上梓された。
本書はアメリカの名門大学が採用する地球学教科書
『UNDERSTANDING EARTH』(8th edition)
を全3巻の構成で翻訳したものである。
第1巻と第2巻では、プレートテクトニクスから、マントル対流など地球内部の動き、それらによって生みだされる火山や地層、岩石変成など、地球の固体部分の大きな仕組みが手に取るように理解できるつくりになっている。
また、第3巻では、大気・海洋の大循環システムから、いまや避けられない関心事である温暖化、マクロ的視点でとらえた気候大変動など、地球の表層部分の大きなメカニズムを中心に学べるようになっている。
本シリーズは、基礎から専門的な知識までしっかりと学びたい高校生や大学生の教科書として最適であるだけでなく、さらに専門的な地球科学、惑星科学、地質学の科学書を知解するための基本知識を得ることのできる良質な入門書である。
この度ブルーバックス・ウェブサイトにて本書の一部を特別公開。
我々が住む地球の「真実」をご覧ください。
*本記事は、『カラー図解 アメリカ版 大学地球科学の教科書 第1巻』(ブルーバックス)を再構成・再編集してお送りします。
海洋底拡大説
地質学的な証拠だけでは、大陸移動は物理的に不可能だと主張する懐疑派を納得させられなかった。なにより、パンゲアを分裂させて諸大陸を動かしえた原動力について、理にかなった説明のできる者が誰ひとりいなかったのだ。
たとえばウェゲナーは、大陸は硬い海洋地殻の上にボートのように浮いていて、太陽と月の潮汐力を受けて動いていると考えた。しかし彼の仮説は、潮汐力のような小さな力で大陸を動かせるはずのないことは明白だと即座に退けられた。
そうしたなか、この壁を打ち破る画期的な視点が登場する。それは地球のマントル内の対流(第1章で解説)が海洋底拡大というプロセスを通じて新たな海洋地殻を生み出し、大陸を引き離しているのではないかと気づいた研究者たちによってもたらされた。
イギリスの地質学者アーサー・ホームズは1928年に、マントル対流が「もとの大陸を二分して引き離しており、その結果マントルの流れが下降する先端部で造山運動が起こり、マントルが上昇する裂け目で海洋底が生成される」と提唱した。
この説に対してもやはり、地球の地殻とマントルは硬くて不動であるとの反論が数多く寄せられ、ホームズ自身も「諸条件にうまく合うように考案された、単なる推論の域を出ないこの種の見解は、独立した証拠による裏づけを得て初めて科学的な価値をもちうる」と認めている。
ホームズの説を支持する証拠は、第二次世界大戦後に実施された広範な海洋底の調査から得られた。
海洋地質学者モーリス・“ドック”・ユーイングは、大西洋の海底は(一部の地質学者が従来考えていたような)年代の古い花崗岩ではなく、新しい玄武岩からなることを明らかにした。さらに、大西洋中央海嶺と呼ばれる海山の連なりを描いた海底地図を作成し、海嶺の背骨部分に亀裂のような深い谷が走っていることを発見した(図2.4)。
これはリフト(海嶺軸)と呼ばれる。この特徴を地図に描きだした地質学者のなかに、コロンビア大学でユーイングの同僚だったブルース・ヒーゼンとマリー・サープの2人がいた(図2.5)。
サープは数年後に「私はそれをリフトバレーではないかと考えました」と語っている。ヒーゼンは当初、サープの意見を「雑談」として片づけていたが、その後まもなく大西洋のほぼすべての地震がこのリフト付近で起きていることが判明し、サープの直感が裏づけられた。
地震の大部分は断層の活動によって発生するので、彼らの調査結果はこのリフトが地殻変動の活発な場所で見られる特徴の一つであることを示唆していた。似たようなリフトをもち地震の多発する中央海嶺は、太平洋とインド洋にも見つかっている。
1960年代初めには、プリンストン大学のハリー・ヘスとスクリプス海洋研究所のロバート・ディーツが、地殻は中央海嶺のリフトに沿って分裂していて、そうした地殻の亀裂に熱い溶岩が湧き上がることで新たな地殻が形成されるという説を唱えた。
新たな海洋底(すなわち、新しく生み出されたリソスフェアの表層)はリフトから両側に広がっていき、絶え間なく続くプレート形成過程において、さらに新しい地殻に順に置き換わるというのだった。
大統一理論(1963~1968年)
ヘスとディーツによって提唱された海洋底拡大説は、中央海嶺で新たなリソスフェアがつくられることによって大陸が遠ざかるというしくみを説明した。だがここで、別の疑問が湧く。海底とその下にあるリソスフェアは、破壊されて地球内部に再び戻るのだろうか?
そうでなければ、地球の表面積は時間とともに増大することになる。1960年代初頭には、ヒーゼンをはじめとする一部の物理学者や地質学者がこの「膨張する地球」という説を支持していた時期があった。その一方で、海底は間違いなくリサイクルされていると認める地質学者もいた。
彼らは、太平洋海盆の縁辺部にある、火山や地震の活動がきわめて活発な複数の領域(環太平洋火山帯と総称される)で海洋底のリサイクルが起きていると確信していた(図2.6)。とはいえ、このプロセスの詳細は不明だった。
1965年にはカナダの地質学者J・トゥーゾ・ウィルソンが、地球の表面を移動する硬いプレートという観点から地球全体のテクトニクスを初めて記述した。ウィルソンはプレート境界を遠ざかる境界、近づく境界、すれ違う境界の3つに大別した。
その後まもなく、現代の地殻変動――岩石が褶曲したり、断層を生じたり、剪断あるいは圧縮されたりする現象――のほとんどがそうした境界に集中していることが、別の研究者たちによって示された。彼らは地殻の移動する速さと方向を推定し、それらの数字が地球の表面を硬いプレートが移動するというシステムと矛盾しないことを証明した。
プレートテクトニクスという新理論の骨子は、1968年の終わりに確立した。1970年までにはプレートテクトニクスを裏づける証拠は揺るぎないものとなり、ほぼすべての地球科学者に受け入れられた。
教科書は改訂され、研究者はこの新たな概念が自分の専門分野にどのような影響をおよぼすのかについて考えはじめた。
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