スタバのカフェラテが約1460円、公共交通機関の初乗り料金が約960円、郊外のアパートの家賃が約37万円……。ヨーロッパの小国・スイスの物価は、日本と比べてはるかに高い。それを支えているのが、世界でもトップクラスの産業・経済と教育制度だ。スイス在住で留学サポート活動を行なっている田山貴子氏が、そんなスイスの強さと魅力に迫る。
スイスと日本の物価水準の違い
スイスに留学したお子様達が驚くことの1つが物価、特にファストフードの価格の高さです。
物価の比較にはマクドナルドの「ビッグマック」が使われますが、これはスタバ(スターバックス)でも変わりません。
スイス各地にあるスタバのメニューは日本とそれほど変わりませんが、スイスのスタバの「カフェラテ」のトールサイズは7.90フラン(スイスフラン)。日本円にすると約1460円(1フラン185円で計算)です。日本のスタバでは495円~(地域によって異なる)なので、3倍近い価格ということになります。
私は25年前からスイスに住んでいますが、日本より安いと感じるのはヨーロッパのチーズぐらいです。それ以外はファストフード同様、日本の何倍もの価格になります。
買い物に限らず、生活する上でかかる費用も高額なことが多く、例えば家賃は郊外のアパートでも2000フラン(約37万円)を下りません。公共交通機関も初乗り料金が5.20フラン(962円)です。
「強くしなやかな経済構造」が物価高を支える
スイスの物価高には世界でもトップクラスの賃金が大きく影響していて、平均年収ランキングなどでも常に世界の上位にいます。ファストフードなどでのアルバイトの時給も高く、25フラン程度、日本円にするとおよそ4625円です。
物価高に負けない賃金の高さを可能にしているのが、高い競争力を持つスイスの経済です。
スイス企業の大部分は中小企業ですが、輸出が中心。安定した企業が多く、長らく貿易収支は黒字を達成してきました。輸出品は医薬品や化学薬品、機械・電子製品、時計など付加価値の高い製品が占めていることも経済を強くしている理由です。
また、多くの多国籍企業が拠点を置いており、税収や雇用につながっています。
経済発展には技術革新が不可欠ですが、世界的にも評価の高いスイスの教育制度や人材育成システムがそれを支えています。
各国のイノベーション能力のランキング「最も革新的な国指数」(Global Innovation Index)、“人財”を獲得・育成・維持する力のランキング「人材競争力指数」(The Global Talent Competitiveness Index)などでもスイスは1位になっています。
高い物価の例外は大学の学費です。教育に力を入れているスイスでは、大学によっては学費が年間100万円かからないところも少なくありません。さらにスイス人学生と留学生の学費に差がないところもあります(但し、最近は留学生の学費を上げる動きもあります)。
それが教育や研究のレベルの高さに加え、スイスの大学に外国人留学生が集まる理由になっています。
「世界最高の国」ランキングで3年連続1位に
先述した以外でも様々なランキングで上位に入ることが多いスイスですが、私が毎年、注目しているのがU.S. News & World Reportが発表する「世界最高の国」です。2022年から2024年まで3年連続で1位にランキングされています。
このランキングは89カ国を「国力」「文化的影響力」「起業家精神」「生活の質」など10のカテゴリーごとに評価し、総合評価で順位が決まるものです。
スイスは各カテゴリーの1位は獲得していないものの、「ビジネスの開放性」(2位)や「生活の質」(3位)、「起業家精神」(5位)などで高い評価を得たことが総合1位につながりました。
紹介記事では「失業率が低く、熟練した労働力があり、1人当たり国内総生産(GDP)が世界最高水準にある。スイスの文化的貢献は、その小さな国土とは不釣り合いなほど大きく、ノーベル賞受賞者が多く、一人当たりの特許登録数も多い」としています。
ちなみに「小さな国土」とありますが、スイスの広さは九州と同じぐらい。しかも人口は九州より少ないのです。
ランキングで評価されなかったカテゴリーは「コスト面」。納得の結果ですが、物価は上がっていても急激なインフレ状態ではなく、安定した政治、治安の良さ、環境への配慮、自然や歴史的な建物を含む景観などの条件が揃っていることを考えると、やはり「世界最高の国」にふさわしいと感じます。
物価は高くても生活の質も高いスイス
U.S. News & World Reportの記事では「多様性を誇り、独特の文化的アイデンティティを持つ地域が点在しており、ドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語はすべて国民の言語として認められている」ともコメントされているように、スイスの多国語、多文化のグローバルな環境は留学する上でも理想的な環境です。
ランキングでは「生活の質」のカテゴリーの中のサブカテゴリー「治安」と「政治の安定」で満点を、「経済の安定」や「公衆衛生システムの高い発展」「公教育システムの高い発展」でも高評価を獲得。こうした点もスイスが留学先として選ばれる理由でしょう。
治安については、外務省の「海外安全ホームページ」でも比較的良好となっており、特定の地域に対する危険情報なども出ていません(2025年7月)。
社会の安全や治安、国内外の紛争、軍事化などの分野に関して163の国と地域を対象に評価した「世界平和度指数」(経済平和研究所、IEP)でも、スイスは2023年に10位、2024年に6位、2025年に5位とランクアップしています。
私がスイスに移住してきた25年前に比べれば、主要駅では夜になると酔っ払いが多くなったり、デモによって商店のショーウィンドウが破損されたりという残念な変化はあります。しかし、実際に生活していると、夜、仕事で帰りが遅くなった場合でも公共交通機関を利用して帰宅ができるのは大変助かります。
そして、スイスの治安のよさを特に感じるのが幼稚園や学校です。スイスでは幼稚園からが義務教育となりますが、子どもの自立を大切にする観点から、通園には親が“つき添わないように”と指導している市もあるのです。
私が知る限り、公立幼稚園から大学までゲートなどはなく、誰もが建物の中にも入っていけるオープンな環境となっています。
富裕層も注目するスイスの教育水準
「治安もよく、豊かな自然の中で伸び伸びと成長してほしい」「世界トップクラスの教育環境で学ばせたい」。これらは私がこれまで留学をサポートしてきたご家族が、ご子息の留学先をスイスに決めた理由です。
スイスには歴史あるボーディングスクール(寄宿学校)が多数あり、近年、世界各地から3歳~18歳までの富裕層の子どもたちが集まっています。
多言語の環境で育まれる高い言語能力をはじめ、コミュニケーション能力、社会適応能力なども身につけることができるだけでなく、大自然の中でのアクティビティ、スポーツ、遊びを通じて心身を鍛えられることも富裕層に選ばれる理由です。
学校全体の学力も高く、毎年、国際バカロレア資格を利用して、イギリスやアメリカ、日本の大学に進学する日本人留学生が多数います。
何よりも利害関係のない時期に築いた、世界中の富裕層の子どもたちとの友情関係は一生の宝です。スイス留学で培った知識、経験、人脈が将来、自分が望む人生を歩む上で大きな力を発揮することを確信しているからこそ、富裕層たちはわが子を送り出すのです。
スイスが「世界最高の国」であることもその選択を後押ししています。
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