「窓を開ける」のは猫のお仕事
飼い猫が「家じゅうの網戸を開けて回る」のを止めさせたいと、動物行動学を専門にする高倉はるか先生に相談したところ、「開けるのは、猫にとってお仕事のようなもの。開けられることを学習した猫は、開けることで達成感が満たされる」と言われた。止めさせたいのなら、怒ったり、言い聞かせるのではなく、物理的に開けられなくする必要があるのだという。
東京大学、および大学院で獣医学を学び、在学中にカリフォルニア大学デービス校付属動物病院にて行動治療学の研究をされた高倉はるか先生がペットのお悩み相談に答える連載の後編。
動物の取る行動の中には、生来の習性から、無意識にやってしまうものもあるという。そのひとつが、猫がテーブルやキッチンカウンターなどに乗ってしまうこと。猫には高いところに登りたくなる習性があるのだ。
テーブルやカウンターで猫がゴロゴロするのを、家族全員が笑って見ていられる家なら問題ないが、人によっては不快に感じるケースもある。その場合は、止めさせた方がいいだろう。
けれども習性が伴っているものを、どうやったら止めさせられるのか。はるか先生のインタビューでお伝えする。
上がってほしくないテーブルに乗る時は
むぎちゃんが網戸を開けるのは、「網戸の開け方」を学習し、家の中の見回り中「窓があったから、開けてみたら開いた」という行為が達成感をうんでいるからとお話しました。
飼い主さんにとっては意味のないことでも、家の中で退屈している猫にとっては、大事なお仕事。そして、生きていくために必要なスキルを身につける大切な学習プロセスです。動くものを追ってみたり、わざわざ高いところに登って、そこから飛び降りたり。こういうチャレンジングな遊びは、狩りのためのスキルであり、やりがいにもなっています。
でも、飼い主さんが困っているのなら、止めさせないとなりません。そんな時は、まずその行為がなんであるか、名前をつけ、教えるところから始めます。
これは、猫とコミュニケーションを取る準備、その行為の名前を覚えてもらうためです。
たとえば、猫がテーブルやカウンターの上などに上がろうとした瞬間に「上がって」と声を掛けます。そして、すかさず、「はい、降りてね」と言いながら、優しくおろします。叱らずに、対になる言葉と行動で、「降りる」ことを覚えてもらうのです。
高いところに上がるのは習性なので、ただ禁止するだけでは、猫の方もストレスがたまります。そこで、行動自体を禁止するのではなく、上がったら、同時に「降りて」を教えるのです。
代わりのものを用意する
動物も禁止ばかりされていると、ストレスがたまってきます。繰り返しになりますが、習性から自然発生した行動は、犬や猫にとっては大事な学習プロセスなので、ただ、「ダメ」と叱るだけでは、不満に思うものです。
テーブルに上がるのは止められなくても、すぐに降りてくれればいい。または、ほかの棚や台などを用意して、「こっちに、上がって」と声を掛けてあげる。
ほかにも、家具や壁を引っ掻いてほしくなければ、代わりに爪とぎを用意する。
ソファやテーブルの脚を噛んでほしくなければ、歯固めのような代わりに噛めるものを与える。
猫や犬の「やりたい」気持ちを、ただ禁止にするだけでなく、理解し、そらしてあげる。そうした「わかってくれる」飼い主さんには、動物も信頼を寄せ、その言葉を理解しようとしてくれます。
ストレスは最小限に、互いに心穏やかに暮らせる、ペットとの理想的な生活だと思います。
◇犬や猫の学習の仕方を聞くと、人間の子どもと変わらないと思わされる。
そう伝えると、はるか先生は、「本当にそうだと思います。うちは動物の行動から学んだ事例を参考に、子育てをしてきました」と言った。
過去、なかなか泣き止まない子どもにイライラすることもあり、そんな時「叱る代わりに代用案を出す」ことは動物たちから学んだという。
動物も子どもも自らのやりたい気持ちを抑えないように見てあげたい。