美容整形市場が世界中で拡大
美容整形の市場が世界で拡大している。2025年6月30日、調査会社パノラマデータインサイトは、世界の美容整形市場が、2024年から2033年までに569億8000万米ドル(8兆8319億円)から802億3000万米ドル(12兆4356億円)に達するというレポートを発表(1ドル155円の場合)。年平均成長率も3.84%と高い
では日本ではどのような状況なのか。厚生労働省医政局が2024年6月に開催した「美容医療の適切な実施に関する検討会」で「美容医療に関する現状について」という資料を掲げている。これは2022年までの調査だが、2019年の美容医療の施術数123万回から2022年はおよそ3倍の373.2万回となっている。
キャリア10年以上、3000件以上の調査実績がある私立探偵・山村佳子さんは、メンタル心理アドバイザー、夫婦カウンセラーの資格を持つ。「探偵への依頼のきっかけが、パートナーの容姿が美容整形により変わったからというケースも増えています。中には整形依存症になってしまうことも多く、その背景に“自分の顔が醜い”と思いこむ“醜形恐怖症”があることも。自分の外見を否定することは苦しく、周囲の人を巻き込むこともあります。私は心理を学んだ経験から、調査対象者の状態を判断し、行政や医療につなげることもあります」と言う。
美容医療を受ける理由の第1位は
どんな施術内容が増えているのか。2022年の調査を見ると、個別で最も多いのは「顔面若返り」で89.1万回。続いて注入剤(76.2万回)、顔面・頭部(72.4万回)と続く。ぐんと増えているのが「その他」で、セルライト治療、脱毛、非手術的脂肪除去痩身、刺青除去、下肢静脈治療、硬化療法、再生医療等が含まれる施術が120万回を超えている。
外科的施術のみでみると、眼瞼形成が断トツで多く45.4万回で、2位のフェイスリフト8.4万回を大きく引き離している。非外科手術では脱毛が61.2万回、ボツリヌス菌注入が55.7万回、セルライト治療が35.3万回のスリートップだ。
ではなぜ美容医療を受けるのか。2022年調査での女性の理由の1位は「コンプレックスの解消」ついで「自己満足」「ずっと気になっていたから」とつづくが、「手軽にできるようになったから」「時短美容のため」「アンチエイジングしたい」「周りでやっている人を見て」「モテたい」など様々な理由がある。ただ、山村さんが言うような「醜形恐怖症」の場合、何度整形をしてもコンプレックスが解消できず、美容整形をくりかえしつづける整形依存症におちいる例も報告されている。3割が整形依存になるという報告もある。醜形恐怖症で変え続けることもある場合、美容医療外科ではなく心療内科に通う必要がある。
山村さんは「困っている人を救える人になりたい」という気持ちが強い。学生時代は警察官を希望していたが、当時は身長制限があり、受験資格はなかった。一般企業に勤務するが、目の前の人を助けたいという思いは強く、探偵の修行に入る。探偵は調査に入る前に、依頼者が抱えている困難やその背景を詳しく聞く。山村さんは相談から調査後に至るまで、依頼人が安心して生活し、救われるようにサポートをしている。
これまで「探偵が見た家族の肖像」として山村さんが調査した家族のことをお伝えしてきたが、この新連載「探偵はカウンセラー」は、山村さんが心のケアをどのようにして行ったのかも含め、様々な事例から、多くの人が抱える困難や悩みをあぶりだしていく。個人が特定されないように配慮をしながら、家族、そして個人の心のあり方が、多くの人のヒントとなる事例を紹介していく。
今回山村さんのところに相談に来たのは38歳の会社員・義明さん(仮名)だ。結婚3年になる5歳年下の妻の顔が変わり、外出が増えているという。「妻の美容整形から、疑わしい行動が増えた。何をしているのか知りたい」と、山村さんに相談してきた。
山村佳子(やまむら・よしこ)私立探偵、夫婦カウンセラー。JADP認定メンタル心理アドバイザー、JADP認定夫婦カウンセラー。神奈川県横浜市で生まれ育つ。フェリス女学院大学在学中から、探偵の仕事を開始。卒業後は化粧品メーカーなどに勤務。2013年に5年間の修行を経て、リッツ横浜探偵社を設立。豊富な調査とカウンセリング経験を持つ探偵として注目を集める。テレビやweb連載など様々なメディアで活躍している。
交際2ヵ月で結婚
今回の依頼者、義明さんから電話があったのは、土曜日の朝でした。「朝起きたら、妻がいない。おそらく、浮気をしているんだと思います」と言うのでカウンセリングルームで会うことにしました。
義明さんは、自分が自分がと主張せず、存在感を強調したくないと感じているような印象でした。洗いざらしの黒のポロシャツにグレーのパンツ、白髪が多く実年齢よりも上に見えます。仕事は、Web制作会社のディレクター。控えめだけど柔軟に相手に合わせる、“実はデキて信頼できる人”という雰囲気が醸し出されていました。まず、妻について伺います。
「妻は大手企業の派遣社員として働いています。外では華やかで気がきくのですが、家ではずっとスマホを見て寝ているタイプです。結婚のきっかけは、コロナ明けの合コンで、同席者に絡まれていた妻を助けたこと。普段、僕はそんなことをしないのに、連絡先を交換して、交際2ヵ月で結婚しました」
当時、コロナ禍もあり「このチャンスを逃したら結婚できない」という強迫観念もお互いにあり、結婚へと向かわせたと言います。
「妻は、親との仲が悪く、ほとんど絶縁状態でした。実家への挨拶は、僕だけで行ったのですが、妻の両親は結婚を喜んでくれ、“あの子を頼みます”と100万円を渡してきたのです。“要りません”とお返ししたのですが、“どうしても”と言い、お預かりすることに。妻に親のことを話すと不機嫌になるので、何も聞けませんが不思議な親子関係だと思いました」
父は暴力、母はアルコール依存症で早逝
あえて、親との関係を詳しく聞かなかったのは、義明さんも問題を抱える家庭で育ったからだと言います。
「僕の父は会社経営をしていて金はあったのですが、家の中で暴力を振るっていた。母はアルコール依存症で入退院を繰り返し、僕が高校生の時に40代で亡くなりました。そんな環境だったので、私にまともな家庭が築けるとは思わない。妻に同じ“匂い”があったこと、互いに子供を望まなかったことが大きいです」
義明さんは「とはいえ、僕はオヤジと今の奥さん(父の再婚相手)とは、普通の関係ですよ」と笑っていました。私が驚いたりしないように配慮しながら言葉を選んでいることが伝わります。それから「妻が……」と話し始めてから、嗚咽するように泣いています。気持ちが落ち着くまで、待つことにしました。
「妻が、変わったのは1年ほど前です。それまで、気に入らないことがあると僕に当たっていました。日常的に “元カレと結婚した方が幸せになれた”とか、“結婚してから自由がなくなった”などと言う。他にも日常生活で難癖をつけられていたのですが、それがほとんどなくなりました」
義明さん夫婦の生活費の負担配分を伺うと、収入差を考え、家賃と光熱費、通信費は義明さんが、食費は妻が負担しているとのこと。妻は25万円ほどの収入のほとんどを自由に使えるという環境です。
1年前から顔が変わっていった
「1年前に妻がちょっと若返ったことがあったのです。理由を聞くとエステに行ったという。楽しそうにしているので、その時は流したのですが、そこから少しずつ顔が変わっていきました。半年ほど前、家の中でサングラスをしているので、驚いていると、二重まぶたにする施術を受けたと言う。僕は美容整形に恐怖心があり、衝撃を受けました」
その頃から、妻とは同じ価値観を共有できないと感じ、性行為ができなくなったそうです。
「妻は性欲が強く、毎週のようにしていましたが、僕ができなくなってしまった。それでも頑張って月に1回は関係を持つようにしていましたが、いよいよダメになってしまって……。妻からはどうしてできないのかと責められたのですが、そうなるほど、ダメになる。かといって、浮気はしてほしくない。そのことを伝えると“勝手なことを言うな”と怒られたのです」
ここまでの話を聞いても、健全な夫婦関係とは言えず、どこかで話し合いの機会を持つか、別居するなどして冷却期間をおいた方がいいと感じました。
「離婚はしたくないし、妻もそう思っていると感じます。僕は父に女性がたくさんいて、母が苦しんでいることを知っていたので、浮気も本当に許せない。浮気したら離婚すると思っていますが、いざ別れるとなると、足踏みしてしまう。どうしていいかわからないのです」
妻は同じ心の傷を共有できる相手
義明さんに妻の魅力を聞くと、「僕にないものをたくさん持っており、同じ心の傷を共有できること」と即答しました。
「外では社交的で明るく、いろんな人に好かれる妻を尊敬しています。高い能力がありながらも、“自由でいたい”と派遣社員の立場でいることも憧れます。僕はフリーランスの方が稼げると言われますが、正社員にこだわって今の立場に甘んじている。やはり、妻のことが好きなんでしょう」
話を聞くにつけても、妻は浮気している可能性は大いにありそうです。ただ心配なのは、義明さんも妻も親からの愛情不足ゆえの自己肯定感の低さを感じることです。妻が整形をはじめたり、性欲が強く、セックスを求め続けることも、”自分が愛されていることの確認”を得るためかもしれません。
そんな妻が、義明さんから性行為を拒まれたとき大きなショックを受け、自暴自棄になった可能性もあります。どんな現実があっても向き合えるかどうか伺うと、「想像すると絶望してしまいますが、何とか、頑張ります。報告の日は、親友と来てもいいですか?」と言うので「どうぞ」とお答えしました。
妻の行動を聞くと、週5で働いており、そのうち1日は終電で帰宅する。また土曜日と日曜日のどちらか、家を出るとのこと。これは、半年前までなかった行動パターンだそうです。私は妻の帰宅時間から、相手を既婚者ではないかと仮定しました。
既婚者の浮気は、土曜日に行われることが多い。また、頻度と妻の性欲の強さからしても、相手は複数人の場合もありそうです。仮定を確認するためにも、調査に入ることにしました。
◇妻も義明さんも、お互いに「親との縁の薄さ」「子どものころ愛された実感を得てこなかった」という共通点があって結婚をした。義明さんが理解して愛しても、妻には不安があったのかもしれない。整形もコンプレックスを解消することで自信がつくのであればよいのだが、それを繰り返してしまう場合は必要なのは美容外科よりも心療内科の方だ。
では妻は浮気をしているのだろうか。整形を繰り返すようになった理由は何なのか。詳しくは後編「結婚3年、整形を繰り返す33歳妻の向かった「意外な場所」夫の衝撃と決断」にてお伝えする。