企業の管理職トレーニングを10年以上手がけてきた私は、最近ある傾向に直面しています。
「発言を一切せず、1on1では5分も会話が続かない管理職」
「管理職トレーニングには出席するが、どの質問にも答えず“いるだけ”の課長」
「あと2年で定年、“お金は若手に回してくれ”と目を伏せる部長」
彼らに共通するのは、かつて組織を背負ってきた“ミドル”世代であること。そして、心のどこかで「もう自分は必要とされていない」と感じていることでした。
この傾向について、具体的な事例をもとに紹介します。
1on1で1問も答えない「おじさん管理職」
ある大手製造業での管理職トレーニングで出会った課長Aさん(40代後半)は、初回から強い印象を残しました。
私との1on1では様々な角度から問いを投げかけても1問も答えず、トレーニング時間の1時間どころか5分も持たない。
私たちは組織改革のためにまずはリーダーに変革してもらうためのトレーニングを行っています。通常のトレーニングは全4回。2回目を終えた段階で私は社内の責任者に話を切り出した。
「Aさん、何かお困りのことがあるのでしょうか。もし私が合わないようでしたら、他のトレーナーに替えていただいて構いません」
責任者は申し訳なさそうに、首を横に振った。
「実は本人に聞いたんです。“何か理由がありますか?”って。そしたら、彼、こう言ったんですよ」
「誰がやっても同じです。内容に興味がないので」
「……じゃあ、研修に来る意味がないんじゃ?」
「業務命令ですから。出ないと評価に響くでしょ」
遠方の支社からわざわざ出張して研修に参加しているにもかかわらず、結局最後まで何も話さないまま、トレーニングに出席し続けたのです。
最終回まで彼の口から“業務以外の言葉”を聞くことはありませんでした。
本当に「やる気がない」のか?
だが、同席していたメンバーの一人がぽつりとつぶやいたのです。
「Aさんって、現場ではすごい人なんですよ。部下の相談にも丁寧で、トラブルが起きても真っ先に駆けつけてくれるんです」
“やる気がない”のではなく、“成長しろ”と言われること自体に意味を見いだしていなかった──。
そう解釈するのが正しいのかもしれません。
「業務はやる。でも、変わるつもりはない」。その静かな意思表示は、“静かな退職”の管理職版とも言えるのではないでしょうか。
近年、明らかに「変化に消極的なミドル層」が増えてきているのを感じています。
50代後半から60代。かつては組織の中核だった存在が、「役職定年」「再雇用」「給与半減」という三重苦のなかで、「もうがんばらなくていい」という空気をまとって現れるのです。
こうした「静かな退職」を選ぶ管理職の存在は、会社にとっては大きな損失です。彼らはなぜやる気を失ってしまうのか?どうしたら変われるのか?詳しくは後編記事〈いま、なぜ管理職は「静かな退職」を選ぶのか?これからの時代に必要な「リーダーのかたち」〉でお伝えします。