前編記事『<京都アニメーション放火殺人事>36人もの命を奪った「理由」とは? 涼宮ハルヒに魅せられた男の憧れが憎悪に変わる時【前編】』より続く。
日本が滅んでほしい
「金を出せ!」
2012年6月20日午前0時20分ごろ、青葉は茨城県坂東市のコンビニに着くと、店内に入り、従業員に包丁を突き付けて脅迫し、現金2万1000円を奪って逃げた。
犯行を終えた青葉は同日午前1時ごろ、「2ちゃんねる」にこんなことを書き残したという。
「今の日本は心から滅んでほしい」
コンビニ強盗から約10時間後、茨城県警境署に自首し、強盗の容疑で逮捕された。
そして16年1月下旬、3年6ヵ月の刑期を終えて出所した。
家族とも縁が切れ、暮らす場所のない37歳の青葉は半年後、同市見沼区の賃貸アパートに移った。
2階建ての1階の部屋。間取りは1K。
生活保護を受給し、再び、一人暮らしとなる。
週1~2回、訪問介護、訪問看護を受けることになった。
青葉は約1万円を捻出してパソコンを買い、小説の執筆を再開した。
時間を費やして2作品を書き上げると、16年9月に京都アニメーション大賞に短編小説『仲野智美の事件簿』を、同年11月に長編小説『リアリスティックウェポン』を応募した。
のちに青葉が京アニに「パクられた」と主張する小説である。
落選と裏切り
青葉が京アニ大賞に小説を応募してから1年余り後。
2017年も年の瀬を迎え、慌ただしくも安穏なムードが漂う世間の陰で、青葉は不規則な睡眠が続き、精神的に不安定になることが多くなっていた。
一人で孤独に暮らす部屋で、「上から物音が聞こえる」ようになっていたという。
青葉にとって、17年は落胆が続いた一年だった。
京アニから一通のメールが3月に届いた。期待していた「合格」「当選」の文字はない。京アニ大賞の落選を知らせる内容だった。
京アニは5月、大賞の該当作品はないと発表したが、青葉は希望を捨てなかった。
「これだ」と目を付けた作者に、個人的に連絡を入れることがあるはずだと思い込んでいた。落選した作品の中から拾われるはず──。
しかし、いくら待っても京アニからの連絡は来なかった。
「裏切られた気持ち。それはないと思った」 (第5回公判)
次に望みを託したのは、小説投稿サイト「小説家になろう」だった。
6月、京アニ大賞に応募した長編と短編の両作品を一部修正して投稿した。しかし、いくら待っても誰も読んではくれなかった。
8月、人知れずサイトを退会した。
打ち砕かれた憧憬
暮らしがすさむ中で迎えた18年1月、青葉は捨て鉢な行動に出た。
「小説と関わりたくない」と決意を込め、こつこつと小説のアイデアを書きとめたノートを燃やした。捨てただけではごみ箱から戻せると思い、二度と復元できないように火をつけ、灰にすることを選んだ。
そして、執筆をやめた。
出所後に通っていた就労支援のための作業所にも行かなくなり、社会との接点を一つ失った。
外出の機会は減り、ゲームをして長時間を過ごし、「ドン、ドン」という音やローラーを回すような音に悩まされるようになる。
京都アニメーションが制作したアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』に衝撃を受けてから、およそ9年。
京アニへの憧憬は打ち砕かれ、憎悪へと変わり始める。
「裏切り者は許さない」
この年の2月、青葉は掲示板にそう書き込んだ。
前編記事『<京都アニメーション放火殺人事>36人もの命を奪った「理由」とは? 涼宮ハルヒに魅せられた男の憧れが憎悪に変わる時【前編】』より続く。