さまざまな問題が片付いてからやりたいことに着手しよう――そう考えていたらいつまでたっても大事なことに取り組める日は来ない。そう指摘するのは、ベストセラー作家のオリバー・バークマン氏だ。
前編記事〈「すべての問題が片付いてゆっくりできる日」は永遠に来ない…ベストセラー作家が教える「心の安定」を手に入れる方法〉に続き、後編では“まず行動を起こす”ための3つの具体的なテクニックを紹介。
バークマン氏の著書『不完全主義 限りある人生を上手に過ごす方法』(高橋璃子訳)より一部抜粋・編集してお届けする。
「すべてが片付く日」は来ない
思いどおりにならない日々のなかで、「心の安定」が手に入らないと感じるのも無理はない。
だが、僕たちはそこを目指して努力すべきではない。事態は逆で、心の安定をゴールではなく出発点に置く必要がある。
心の安定をゴールにする人の典型的な行動は、「まず身のまわりを片づける」ことだ。気がかりなタスクを片づけて、もう何も邪魔が入らない状態を作ってから、ようやく大切なことに集中できると考える。
問題は、片づけるべきタスクは事実上無限にあるということだ。だから「まず全部片づけてから」と考えていると、片づけだけで一生が終わってしまう。
それに対して、心の安定を出発点にする人の行動は、「まず自分に時間を割り当てる」というものだ。今すぐに、少しでもいいから、自分のいちばん大事なことに時間を使う。
ほんの30分間でも実際にやりたいことをやるほうが、いつ来るかどうかもわからない未来の何百時間を待つよりずっといい。
「自分のため」に時間を使おう
また、心の安定をゴールにする人は、疲れていても頑張って働きつづける。いま頑張っておけば、いつか休める日がくるはずだと考えるからだ。
一方、心の安定を出発点にする人は、疲れたらすぐに休みを取る。わずかな時間でも、いま休んだほうがうまくいくとわかっているからだ。
やるべきタスクを後回しにして自分のために時間を使うのは、落ちつかない感じもすると思う。初めのうちは安定するどころか、片づいていない用事が気になって不安が高まるかもしれない。
それでも、大事なことに取り組んでいれば、気持ちはあとからついてくる。
「心が落ちついたら始めよう」と永遠に待ちつづけるのではなく、まず行動を起こすところに意味があるのだ。
そのための具体的なテクニックを3つ紹介しよう。
まず行動を起こすための3つのテクニック
(1)溜まったタスクは別管理にする
未読メールや小さなタスクが溜まってしまったとき、心の安定をゴールにする人は、1週間集中して一気に片づけるといった計画を立てがちである。
しかしその計画は、往々にして失敗する。面倒な仕事ばかりでモチベーションが保てないのもあるし、取り組んでいるあいだにもメールやタスクは溜まっていき、結局うまく片づかないからだ。
一方、心の安定を出発点にする人は、過去のタスクに執着しない。
タイムマネジメントの専門家マーク・フォースターは、次のシンプルなやり方を提案する。
まず、溜まったメールをまとめて別のフォルダに移し(これだけで受信トレイの未読が0件になる!)、未完了タスクを「過去の分」のリストに分けてしまう。そして、過去のタスクから片づけるのではなく、新しく入ってくるメールやタスクを優先的に片づける。今をスタート地点として、未処理の案件を溜めないようにするのだ。
過去のタスクについては、日々少しずつ片づけてもいいし、状況が許す場合はさっぱり忘れてしまってもいい。
(2)すでに決めた予定にとらわれない
仕事や用事をつい引き受けすぎてしまうことは誰にでもある。そんなとき、心の安定をゴールにする人は、なんとかすべてをこなそうと頑張りながら「これからは安請け合いしないぞ」と決意する(が、結局なんだかんだで引き受けてしまう)。
心の安定を出発点にする人は、勇気を出して、予定していた仕事や用事を再調整する。
たとえばプロジェクトから手を引く、締め切りを延ばしてもらう、友達との約束をキャンセルする。そのうちいつかタスクを減らそうとするのではなく、目の前にあるタスクを確実に減らすのだ。
(3)やることリストを「メニュー」として扱う
心の安定をゴールにする人は、やることリストをすべて終わらせないと安心できないと考える。でもたいていの場合、やるべきことはあまりに多く、使える時間はあまりに少ない。つまり、やることリストを全部終わらせるのは不可能である。頑張ってもストレスが溜まるだけだ。
一方、心の安定を出発点にする人は、やることリストを「選択肢の並んだメニュー」と捉える。すべてを終わらせるのは無理だと認識したうえで、どれをやるかを選ぶのだ。
すると、やらなければならない義務は、好きなものを選べる自由に変わる。
レストランのメニューほど魅力的ではないにせよ、捉え方を変えるだけで意外とやる気が出てくるものだ。
問題がすべて消え去るわけではないが……
心の安定を出発点にするアプローチに、最初は戸惑うこともあると思う。でもその違和感をやりすごせば、今までにない満足感がやってくる。やるべきことに没頭できるし、自己効力感も高まる。
無理に頑張るのではなく、肩の力を抜くことで、物事がうまく回りはじめるのだ。
もちろんこのアプローチをとったからといって、問題がすべて消え去るわけではない。問題はいつだってなくならない。それでも、問題がある状態のストレスは軽くなり、意外と楽しく問題に取り組めるようになる。
それはビーチで寝そべるような快適さではなく、風雨にさらされながら丘を歩くような感覚だ。簡単ではないし、快適ともかぎらないけれど、そこには独特の爽快さがある。
生きている実感が湧いてくるはずだ。