同じ週に3人の主演ドラマ初回放送
業界内でも「前例がないのでは?」などと噂される“嵐ウィーク”がはじまった。
まず9日(水)、相葉雅紀主演ドラマ『大追跡~警視庁SSBC強行犯係~』(テレビ朝日系、水曜21時)がスタート。『相棒』などの刑事ドラマシリーズが放送され続けている放送枠だけに局を挙げた大作であることは間違いない。
続いて12日(土)には櫻井翔主演ドラマ『放送局占拠』(日本テレビ系、土曜21時)がスタート。2023年の『大病院占拠』、2024年の『新空港占拠』に続くシリーズ3作目で、櫻井ありきの企画であることは確かだ。
翌13日(日)にも松本潤主演ドラマ『19番目のカルテ』(TBS系、日曜21時)がスタート。こちらは民放最長かつ最強のドラマ枠である日曜劇場の作品だけにヒットが有力視されている。
驚くべきは同じSTARTOの所属タレントと放送時間がかぶっていること。櫻井の『放送局占拠』は裏番組に井ノ原快彦がMCを務める『出没!アド街ック天国』(テレビ東京系、土曜21時)、松本の『19番目のカルテ』は裏番組にSixTONESの民放初冠バラエティ『ゴールデンストーンズ』(日本テレビ系、日曜21時)が放送されている。どちらも「嵐を優先させて先輩・後輩ともに容赦なし」というスタンスの編成に見えてしまう。
さらに興味深いのは9日夜、相葉の『大追跡』第1話の裏番組として放送された特番『クイズ!国民一斉調査』(日本テレビ系、20時~)。この特番に櫻井が出演したほか、「嵐のヒット曲 カラオケで最高に盛り上がるのは?」のTOP3を当てるクイズも放送された。ただ、「嵐同士で出演時間がかぶるのか?」と思いきや、櫻井の出演は20時台の前半のみに留め、21時にスタートする相葉の『大追跡』とかぶらせない配慮が感じられる。
バラエティでも局を超えた嵐への特別扱い
テレビ朝日、日本テレビ、TBSと3局が歩みをそろえるように同じ週にドラマの第1話を放送すること。さらに先輩・後輩のレギュラー番組に容赦しない一方、嵐同士の“裏かぶり”は避けることなど、かなりの特別扱いが見られる。
もちろんこの期間はドラマだけでなくバラエティのレギュラー番組も放送されるが、こちらも“嵐ウィーク”を印象付けるためなのか特番仕様。櫻井がMCを務める10日放送の『櫻井・有吉THE夜会』(TBS系、木曜21時50分)は開始時間を前倒ししたスペシャル版であり、相葉がMCを務める12日放送の『嗚呼!!みんなの動物園』(日本テレビ系、土曜19時)は2時間SPで櫻井も出演する。
また、二宮和也がMCを務める11日放送の『ニノさん』(日本テレビ系、金曜19時)は特番仕様ではないものの、同じ時間帯に放送される後輩・Snow Manの冠番組『それSnow Manにやらせてください』(TBS系、金曜18時30分)の2時間半スペシャルに松本が出演。そこでもラストライブなどの嵐に関わるトークが予定されている。
さらにこの他にも、7日放送の『10万円でできるかな』(テレビ朝日系、月曜19時)3時間SPに相葉、10日放送の『THE突破ファイル』(日本テレビ系、木曜19時)に櫻井などの番宣出演もある。振り返ると前週の2日に相葉が『2025 FNS歌謡祭 夏』(フジテレビ系)、5日に櫻井が『THE MUSIC DAY 2025』(日本テレビ系)と大型音楽特番でMCを務めたことを皮切りに“嵐ウィーク”が幕を開けたのかもしれない。
このテレビ局をまたいだドラマ3作の同週スタートや出演ラッシュはどんなことを意味するのか。嵐はテレビやメディアにどんな効果をもたらすのか。
“活動終了プロジェクト”の幕開け
もちろん各局の編成事情もあるが、それでもドラマは「第1週は相葉、第2週は櫻井、第3週は松本」などと他局との競合を避けて順番に放送することもできたはずだ。事実これまでは各局と芸能事務所側が話し合い、話題が競合しないように分散させるケースのほうが多かった。
ライバルである民放各局がこのように間接的な連携を取るのは、スケールメリットが計算できるからだろう。嵐ほどのグループなら、同じ週にまとめることで大きなインパクトを与えられ、局を超えた相乗効果が期待できる。
また、来春のツアーで嵐が活動終了するため、今回のそろい踏みが最初で最後の機会となることも背景の1つだろう。そもそも今夏のドラマに嵐の3人がそろい踏みするのは、来春のツアーから逆算したスケジュール調整によるものという意味合いがある。つまり今夏のドラマそろい踏みは「1年弱をかけた“嵐の活動終了プロジェクト”の幕開け」なのかもしれない。
そんな活動終了プロジェクトが盛り上がるほど、嵐を伝説的なグループという立ち位置にまで昇華させられるだろう。さらにそれが実現できれば、本人たちは“国民的グループのメンバー”から“国民的タレント”へのスムーズな移行が可能になる。
昭和時代から「アイドルはグループ解散後に同等レベルで活躍するのは難しい」と言われており、それはジャニーズ事務所のアイドルも同様だった。徐々にメディア露出が減り、あのSMAPメンバーですらグループ在籍時ほどの影響力がなくなったことからもそれがわかるのではないか。
STARTOへの特別扱いに危うさも
ただ、それは「悲劇」としか言えない解散や旧ジャニーズ事務所に対するメディアの忖度が暗い影を落としていただけに、「嵐はそんなことがないようにするべき」と考えるのは当然のように見える。本人たちはもちろんメディアにとっても「嵐には伝説的なフィナーレを飾ってもらい、個人活動へのポジティブな移行につなげてほしい」という期待があるのは確かだ。
もしかしたらメディア側の「来春の活動終了に向かって盛り上げたい」という思いは本人たち以上に強いのかもしれない。各局が水面下で嵐として音楽番組の出演や、冠バラエティの復活放送などを交渉しているほか、出演番組の連続放送や、5人中2人レベルでの共演なども含め、一時的な“嵐景気”を収益につなげたいところだろう。
さらに嵐がグループエージェント契約を結ぶSTARTOとのつながりを深めることも重要なポイントの1つ。あまたいるタレントの中でも、Snow ManとSixTONESを筆頭に、リアルタイム視聴や配信視聴で支援するファンの多さではSTARTOのアイドルが頭1つ抜けている。放送収入の低下が避けられない中、その重要性はジャニーズ事務所のころと同等レベルに近いだけに、今回の特別扱いは「STARTOへの忠誠を尽くす」ような危ういニュアンスがないとも言い切れない。
そのSTARTOは6月27日に社長が福田淳氏から鈴木克明氏に交代したばかり。鈴木新社長はフジテレビで編成制作局長などを務めたあと系列局であるテレビ西日本の社長に就任するなどテレビ業界のエキスパートであることは間違いない。だからこそわれわれ視聴者は「民放各局がかつてジャニーズ事務所にしていた過剰な忖度が再び行われていないか」を監視すべきように見える。
本気になれば民放各局は団結できる
ここまで主に民放各局の思惑をあげてきたが、テレビマン個人に目を向けると、「これまでの貢献に敬意を表して活動終了までの期間を盛り上げたい」という純粋な思いの人も少なくない。
現在バラエティやドラマの現場や管理部門に所属するテレビマンの中には、「嵐の飛躍を目の当たりにしてきた」「嵐とともに歩んできた実感がある」という人がいて、実際にその数人から「実現可能かはわからないが、最後だから特別なことをやりたい」という声を聞いている。
今回の“嵐ウィーク”には特定の仕掛け人がいるのか。それとも間接的に「ウチも」と足並みをそろえるような形で実現したのか。現段階ではわからないが、確かなのは「ライバル関係の民放各局がいざとなれば大同団結できる」という証明になったこと。
今戦うべき相手は本当に他局なのか。テレビ業界の中だけで争う時代は終わったのではないか。団結すべきときは力を合わせてテレビ放送やTVerなどでの配信に人を集めるべきではないか。来春の活動終了に至る流れの中で、そんなゆるやかな横のつながりが芽生えたらテレビ業界にとっての希望となっていくだろう。
最後にもう1つ、ある民放テレビマンの声をあげておきたい。彼は「嵐は仲の良さも人気の理由だっただけに、活動終了後も定期的な共演が期待され続ける」「現在は2人までだが、そのうち3人、将来的には4人の共演が見られるかもしれない」などと語っていた。もしそんな日が来たら2025年の夏ドラマがターニングポイントとして語られるのではないか。