クスリを飲んでも血圧が下がらない
クスリは飲む時間も大事だが、飲み合わせも大切だ。
まったく異なる分野のクスリ同士の相性まで、熟知している医師は少ない。まして複数の病院に通い、クスリをもらっているなら、気づかぬうちに「絶対にやってはいけない飲み合わせ」を犯してしまうリスクも大きいのだ。
当たり前のことだが、クスリとは、「体内のある機能を人工的にコントロールする化学物質」だ。
たとえば痛み止めは、痛みを発する物質が作られないように、その機能を抑える。降圧剤は、血管を縮める物質を作らせないことで血管を広げ、その結果として血圧が下がる仕組みだ。
このような、異なるクスリのメカニズムが体内でぶつかり合うと、思いもよらない副作用につながってしまうことがある。
たとえば、日本大学医学部総合診療学分野・診療准教授の池田迅氏が「診療現場でよく見るケース」と言うのが降圧剤×痛み止めだ。
「痛み止めには血圧を上げる効果があります。ロキソニン(一般名ロキソプロフェンナトリウム)などの代表的なものはもちろん、『胃に優しいから』という理由でよく処方されるセレコックス(一般名セレコキシブ)も血圧が上がりやすい。
こうした痛み止めを降圧剤と合わせて飲むと、降圧剤の効果を打ち消してしまうのです」
低血糖で救急搬送されて……
糖尿病治療薬を服用している人も、痛み止めには注意したい。痛み止めを飲むと腎臓の機能が低下して、糖尿病治療薬の効果が出すぎてしまう。その結果、過剰に血糖値が下がってしまう低血糖を引き起こすリスクがある。血糖値が下がりすぎると、脳がうまく働かず、意識を失ったり、けいれんを起こしたりすることがある。池田氏が続ける。
「なかでも避けたいのが、アマリール(一般名グリメピリド)など古いタイプの糖尿病治療薬です。糖尿病のクスリは新しいものが多く出ているのですが、昔の知識のまま勉強していない医師のなかには、新しい糖尿病治療薬を使わずに、昔のクスリをそのまま処方するケースがあります。
そうした患者さんが、痛み止めなどのクスリを飲み合わせると、一気に低血糖になって倒れ、救急で運ばれることがあります」
もう一つ、重篤な症状を招くことがあるのが睡眠薬だ。薬剤師の堀正隆氏が危険視するのが、睡眠薬×抗生物質である。
「最近は自然に眠気を誘うベルソムラ(一般名スボレキサント)やデエビゴ(一般名レンボレキサント)など、オレキシン受容体拮抗薬という種類の睡眠薬が処方されることが増えました。
実はこれらと、咽頭炎、副鼻腔炎などの治療で使われる抗生物質のクラリス(一般名クラリスロマイシン)との飲み合わせは非常に危険です。クラリスが睡眠薬の成分をより強く持続させてしまい、かなり強い眠気や、ふらつき、そして転倒などにつながってしまうのです」
危険な飲み合わせを引き起こす大きな要因が、患者本人が医師に「どんなクスリを飲んでいるか」を伝えないことだ。堀氏が続ける。
「睡眠薬を常用している方が、かぜの症状で内科や耳鼻科に行った時、どんな睡眠薬を飲んでいるかを医師に伝えないまま、抗生物質の処方箋をもらって薬局に来るというケースが多い。医師にはできるだけ正確に、普段どんなクスリを飲んでいるかを伝えたほうがいいでしょう」
クスリは組み合わせ次第では毒にもなり得る。病気を治すはずが、新たな病気の引き金を引いてしまうことのないよう注意したい。
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「週刊現代」2025年07月07日号より